業を煮やした殿様が、この地に戦を仕掛けようとしている。
 姫様を嫁に寄越さなければ、力ずくでも奪ってやる、と。
 こんな小さな村だ、戦など仕掛けられれば、ひとたまりもないだろう。
 姫がこの婚姻を承諾するように、お主から説得してはくれまいか。
 そうじゃなければ、この村の人間全員が殺される。
 頼む、お主だけが、頼みの綱だ。
 侍は悩んだが・・・ずっと付き従ってきた自分の主の頼み、そして村人の命が掛かっているとなれば、侍もこの頼みを受け入れるしかなかった。
 殿様がこの村に戦を仕掛ける日の朝、侍は姫様の元を訪れて人振りの短刀を差し出した。
 自分は他の村の娘と結婚する、だから、姫様も殿様と結婚してください。
 これからは、家宝であるこの短刀が、自分に変わって姫様をお守りします。
 姫様は、打ちのめされた。
 自分が愛した男に、他の男と結婚しろと言われて。
 そして何よりも、侍が他の村の娘と結婚するというのが、許せなかった。
 狂おしい程の嫉妬が、姫様を支配する。
 そして、手渡された短刀で、侍を刺し殺してしまう。
 自分もすぐに同じ短刀で後を追うつもりだったのだが・・・その時、村人たちが城に押し寄せた。
 姫様を隣国に差し出せ、でないと自分たちが殺される。
 切羽詰まった領主と城に仕える者たちまでもが、姫様を取り囲んで殿様の元へ連れて行こうとする。
 何故。
 何故自分だけが、こんな仕打ちを受けなければならぬのだ。
 殿様も、父親も、侍も、村人たちも、全部がが恨めしい。
 だが、そんな姫様の気持ちとは裏腹に、戦が始まる直前に姫様を差し出した事によって殿様は自分の国に帰って行き、村人たちも無事に事なきを得たのだったーー。