【第五章】
~伝説のある日常~




“鬼姫呪怨伝説”。
 久遠くんの家に伝わるのと同じだというこの話は、あの挿し絵とは裏腹に、意外にも恋物語だった。
 昔、ある一人の姫様がいた。
 たいそうな美人で、年頃になるとあちこちから結婚の申し込みがあった。
 だけど姫様は、この村の領主の一人娘であるという事で他の地へは嫁げないと、申し込みを全て断っていた。
 婿養子に立候補する若者たちも後を絶たなかったんだけど・・・姫様はそれも、断り続けた。
 何故なら、姫様はある一人の男に恋をしていたから。
 幼い頃から姫様を守ってきた、お城に仕える一人の侍。
 その侍も本当は姫様を愛していたんだけど、身分の違いからどうすることも出来なかった。
 そんな二人は、誰にも内緒で深夜のデートを重ねたりしてたんだけど。
 ある日のこと、姫様の噂を聞いた隣の大国の殿様が、是非とも結婚したいと申し出た。
 当然、姫様はこの申し出を丁重に断るのだが、それでも殿様は納得してくれなくて、何度も姫様に会いに来たり、豪華なプレゼントを送ったりと・・・中々諦めてはくれない。
 本当なら、隣国と同盟を結ぶ意味合いも含めたこの縁談は領主にとっては願ってもいないチャンスで、何とか取りまとめたいと思っていたんだけど・・・姫様は頑として首を縦に振らない。
 父親である領主は、何とか姫様を説得しようと、侍を呼び出した。
 幼き頃よりずっと仕えてきたお前ならば、姫も言うことを聞いてくれるかも知れない。
 それに、迷っている時間もないのだ。