何の疑いもなく、その日常をずっと守り続けて。


「ま、俺は外から来た人間だからな。この町の事情なんて知らないけど。あの短刀は、ウチの遠い祖先のものだ」
「ホント?」
「あぁ、ずっと昔から、ウチにも言い伝えがあるんだ。俺も小さい頃から、その話を聞かされて育って来た。だけどそんなの信じてなかった・・・この町に来るまでは」


 そんなものなのかも知れない。
 でも、この町は特別だ。
 どこにでもある、地域に代々伝わる昔話。
 ここは、その昔話が現実に起こる町なんだから。


「で、今は確信が持てたの?」


 あたしが聞くと、久遠くんは頷いた。
 そして、床に置いてあったカバンから何かを取り出す。
 それは、駄菓子屋のお婆ちゃんから借りたあの本だった。
 “鬼姫呪怨伝説”っていう、昔の絵本。


「その本って・・・」
「この話は、俺の家にずっと伝わる話と同じだったよ」


 手渡された本を左手で受け取り、あたしは表紙を開いた。
 何だか怖そうな挿し絵と、昔の書体で書かれた文字が目に入る。
 うっわー・・・こんなの読めたの?
 いやあたし、無理だわ。
 読むのは一瞬で諦めて、あたしはパラパラとページをめくる。
 一人の美しい姫と、その姫に付き従う男。
 その男が、両手で短刀を恭しく姫に差し出している。
 だけど、ページをめくる度に、挿し絵は段々おどろおどろしいものになっていく。
 最後には、鬼のように頭に二本の角を生やした姫が、男を刺し殺していた。
 ・・・なんか、穏やかじゃない絵本だよね。


「ねぇ、久遠くんはこれ、解読したの?」
「したよ。ま、内容はずっと前から知ってるけどな。聞きたいか?」


 あたしは頷いた。
 久遠くんはゆっくりと、話し始めた。