「何から話そうか・・・」


 久遠くんは、あたしが寝ているベッドに腰掛けたままだ。


「この10年くらいで、魔物があの祠の扉を開けたのは・・・俺の記憶が確かなら、12回の筈だ。合ってるか?」


 考えながら、久遠くんは話し始めた。
 えぇと。
 あたしも、朧げだけど、記憶を辿る。


「多分・・・そのくらいの数にはなると思う。ばあちゃんの代から戦闘の記録を書いてるから、それを見れば詳しく分かると思うけど・・・」


 答えながら、あたしの頭の中に疑問が浮かぶ。
 どうして久遠くんが、このことを知ってるの?


「祠の扉が開いた回数と、俺がどうしても血を見たくなるって衝動に襲われる回数・・・それが一致してるんだよ」


 そう言えば。
 久遠くんがこの町に来た日。
 ナイフを持って、松の湯に乱入した。
 その次の日、魔物が出た。
 三日前の戦いも、久遠くんは「我慢できない」って・・・。
 じゃあ、魔物が出て来る時に、久遠くんは血が見たくなるって衝動に駆られるの?


「でも、久遠くんはこの町の人じゃないし・・・」
「そうだな。俺が関係あるのは、お前が持ってる短刀だよ」


 この言葉で、カチッと、何かがピッタリと噛み合った。
 血を吸いたくてたまらない、呪われた短刀。
 血が見たくなる衝動に駆られる久遠くん。
 そして、女しか扱えない筈の短刀を、久遠くんが扱った事。
 あーもう!
 起き上がれないのがもどかしい。
 こんな大事な話・・・寝ながら聞きたくない。


「どうしてもっと早く言ってくれないのよ? あの短刀と久遠くん、一体どんな関係があるの?」
「俺も、この町と短刀の事をもっとよく調べないと確信が持てなかったんだよ。つか、ホント信じられないな。お前も、どうしてちゃんと根源を調べないんだ?」
「・・・・・・」


 ・・・ごもっとも。
 この町が呪われている事は、おとぎ話みたいに語り継がれていくものだと思っていたから。
 ずっと昔からそうだった。
 そしてこれが、日常だったから。