あたしと大して変わらない年齢の、エリナちゃんのママ。
 ちゃんと結婚して、子供が二人。
 だけどさ。
 あたしと来たら、恋人はおろか、遊べるような男友達すらいない。
 いや、下手をすると女の友達とも、ずーっと遊んでない。
 両親が居なくなってからずっと、じいちゃんと二人でこの銭湯を守って来たんだよ?
 年中無休、午後3時から深夜12時まで営業。
 銭湯の仕事って、こうやって番台に座ってボケっとしているだけじゃないのよ。
 当然、営業が始まる前には毎日掃除。
 湯船、洗い場、脱衣場と番台の前の休憩スペース。
 販売用の冷蔵庫の中にジュースの補充、ボイラーの点検とメンテナンス、足りないジュースや燃料の発注。
 その他モロモロ、細かい事まで、しなきゃならない事は山のようにある。
 いくら、今時の銭湯にしては流行っている方だとは言っても。
 うちには他の従業員を雇う余裕なんてないから、当然じいちゃんと、学校から帰って来たあたしがフル稼働しなくちゃならない。
 ずーっとそんな生活を送って来たあたしに、出会いのチャンスはおろか、遊ぶ時間すらある訳が無い。
 当然、結婚も出来ない。
 それにね。
 例えば、万が一にもこんなあたしに恋人が出来たとしても。
 この銭湯【松の湯】は、下町のこの場所にあって、代々受け継いで行かなくてはならない。
 ――・・・要するに。


「お前はこの【松の湯】の立派な跡取りなんじゃ。お前は結婚して、生まれた子供を跡取りとして育てにゃならん」


 じいちゃんが生きている時、これが口癖だった。
 早い話が、おムコさんを探さなきゃならない。
 ・・・・・・。
 ハードル、かなり高くない?