下町退魔師の日常

 と、その時、買い物に行っていた久遠くんが帰って来た。


「あ、お帰り久遠くん」
「ただいま。来てたのか、幹久?」
「あぁ、もう帰るけどな」


 今気付いたんだけど、この2人、いつの間に呼び捨てし合うくらい仲が良くなったんだろ?
 さっきから首を傾げっ放しのあたしに、じゃあなって手を軽く振って、幹久は帰って行った。


「幹久から野菜貰ったよ。今日の料理に使う?」


 ビニール袋を差し出して、あたしは言った。


「あぁ。でもさ」


 幹久の帰って行った通りを眺めながら、久遠くんは首を傾げている。


「俺、最近幹久に避けられてるような気がする」
「へっ? 何で」


 呼び捨てし合うくらい仲良しなんじゃないの?
 頭の上に“?”マークを沢山浮かべているあたしの方を向いて、久遠くんは笑った。


「ひょっとしたら・・・ジェラシー、とか?」


 まさか!
 だって幹久、ちゃんと結婚してるし!


「結婚してたって関係ないだろ。好きなもんは好き。嫌いは嫌い」
「好きか嫌いかって言ったら、好きだけど・・・あ、でも、そーゆー好きとかじゃなくて」


 あー・・・ややこしい。
 面倒くさいって思ってしまうのは、ちょっといい歳になったからなんだろうか?
 こんなの、女子高生の会話だわ。
 も、やめよ。
 そう思い時計を見ると、もう開業時刻だった。


「あ、幹久と話し込んでたら、備品チェックすんの忘れてた」


 あたしは、慌てて女湯に向かおうとする。
 けど、目の前が暗くなった。


「え?」


 顔を上げると、久遠くんがとおせんぼして立っている。
 何故か、その顔は真剣だった。


「何を話してた?」
「え? えぇと・・・」


 あたしは言葉を濁す。
 久遠くんとどうなんだ? って聞かれました、なんて、本人目の前にして言える訳がない。


「何でもない。世間話」
「世間話なら、俺が帰って来た途端、慌てて帰る事ないよな」


 えーと。
 そこは・・・あたしがどうこう言う範疇ではないような気がするんですけど。


「知らないわよ。友達と他愛ない話するのも、興味あるの?」
「あるね」


 そう言い切る久遠くんは珍しく、少しだけ機嫌が悪そうだった。
 ちょっと何よ。
 何でそんな言い回しするのよ。