【第三章】
~恋のある日常~



 それから2ヶ月が経った。
 あの日餓鬼が現れて以来、魔物は祠の扉を開ける事はなかった。
 奴らは不定期に、気まぐれにやって来る。
 一週間とあけずに来た事もあれば、何年も来ない事もあった。
 ま、来たら来たで、その時はその時だ。
 イチイチ気にしていたら、普通に生活出来ないもんね。


「掃除、終了」


 久遠くんが言った。
 もうすぐ夏。
 半袖のTシャツから覗く二の腕が、何だかとっても男らしい。
 じいちゃんが居なくなってから一人暮らしだったのに、今は、こんなに素敵な男の人と一緒に暮らしてる。
 上手く行ってない訳じゃないのよ。
 むしろ、信じられない位に上手く行き過ぎてて、本当にこれでいいのかって、少しだけ怖くなる。
 年中無休で銭湯の仕事やって、たまに戦闘して(我ながらセンス疑うわ)。
 そんな忙しさにかこつけて、男っ気なんて1ミクロンもないってのが、あたしっていうキャラだった筈なのに。


「・・・マツコ!」
「え? あーはいはい、何か?」
「何ボケっとしてんだよ。掃除終わったよ」


 うっ。
 ヤバい、思わず見とれてしまった。
 最近多いのよ。
 だってさ、久遠くんたら。


「今日の夕飯担当、俺だよな。忙しくなるまでまだ時間あるから、ちょっと商店街に買い物行って来る」
「了解ー。はいこれ、食費用の財布」
「はいよ」


 エプロンを外してあたしから財布を受け取ると、久遠くんは出掛けて行った。
 今夜のオカズは何だろうなー・・・なんて、思わず楽しみにしてしまう。
 この町に来て2ヶ月・・・てことは、あたしと暮らすようになって2ヶ月経ったってことで。
 ま、表向きは、従業員が住み込みで働いているだけなんだけど。
 その従業員がまた。


「マツコ!」


 いきなり入り口の戸が開いて、久遠くんが戻って来た。
 あたしは、慌てて背筋を伸ばす。


「はいっ! 何でしょう!?」
「もうすぐ開店時間だからな、その前に備品のチェックしとけよ。女湯の方は見てないから」
「はいはーい」
「あ、それと」


 ・・・まだあんの?


「今日はローストチキンな。肉が食べたい」


 わっ、ローストチキン!
 久遠くんの作るローストチキン、大好き!