いつもエリナちゃんを先にお風呂から上げて着替えをさせたり、ママが出てくるまでの間、遊んであげている。


「本当に助かります。主人はいつも帰りが遅いので」


 それも、知っている。
 エリナちゃんのパパは、仕事帰りにいつもここに立ち寄って行くんだから。
 ママよりも確か三歳年下の、ステキな旦那様だ。


「あれ? サスケは?」


 キョロキョロと周りを見渡しながら、エリナちゃんはサスケを探している。
 サスケというのは、この店の看板猫だ。
 茶トラのメス猫。
 三年前、橋の下のダンボール箱に捨てられているのを見つけたじいちゃんが拾って来た。


「そう言えばどこ行ったんだろ、アイツ」


 いつもは営業が始まる時間には帰って来て、番台の横のサスケ専用カゴで丸くなっているのに。


「あのね、あのね、これ!」


 さっきから持っていたビニール袋を振り回して、エリナちゃんがそれをこっちに差し出した。
 見ると、かつお節だ。


「実家の鹿児島から送られて来たんです。だからおすそわけにと思って・・・あ、サスケにじゃなくて」
「ふふっ、有り難く頂きます。後でサスケにも食べさせますね、ちょっと贅沢かもだけど」


 あたしが言うと、エリナちゃんは笑った。
 袋を受け取って、手を繋いで脱衣場に姿を消す親子を見送って。
 ちょこっとだけ、羨ましくもある。
 今はこの銭湯の二階にある住居で、あたしは一人暮らしをしている。
 畳三枚分の部屋が2つと、居間と台所とトイレがあるだけの、あまり広くないスペースだけど、掃除が楽で何よりだ。
 幸い、お客さんがみんな帰った後に1人で入るお風呂だけは嫌って程大きいし。
 二年前にじいちゃんが死んでから、あたしは本当に一人ぼっちになってしまった。
 母親は、あたしが三歳の頃・・・そう、今のエリナちゃんくらいの時に亡くなっていて、その後父親はあたしを置いて出て行った。
 それ以来ずっと、ここでじいちゃんと二人で暮らしていたんだけど。
 寂しいというよりも、ぶっちゃけ焦っている。