下町退魔師の日常

 皮肉なもので、鬼に立ち向かう手段が見付かったとなれば、村人達は村八分にしていた松嶋家を賞賛した。
 だってそうでしょ。このまま鬼に勝ち続ければ、自分達は喰われなくていいんだから。
 そして、松の湯は繁盛して、今に至るって訳。


「・・・・・・」


 ここまでの話を、久遠くんは黙って聞いていた。
 けど、しばらくして口を開く。


「松嶋の女性は・・・ずっと鬼に勝ち続けているのか?」


 その質問に答える事には、あたしは少し躊躇った。
 そんなあたしの顔を見て、久遠くんは少し哀れむような口調で。


「そうじゃ・・・ないんだな」


 あたしは、力なく頷いた。
 いくら使い手に力を貸してくれる短刀を使っても。
 松嶋の女性は元々戦闘に長けている訳ではない、至って普通の、何処にでもいるしおらしい女性だった。
 数々の戦闘をこなしていく中で、ある程度の戦闘技術は確立されていったけど。
 それでも、こっちに犠牲が出ない訳ではなかった。
 ううん、むしろ、松嶋の女は・・・殆どが、鬼に殺されている。
 あたしの母さんも、ばあちゃんもそうだった。


「松嶋家はね、元々女系の家系なの。だから、お婿さんを貰って生まれる子供は、ほぼ百パーセントの確率で、女の子だった」


 鬼と戦い、そして早くお婿さんを貰って、子供を産まなくてはいけない。
 松嶋の女性は、そんな運命を、生まれた時から背負わされているのだ。
 それは、あたしも同じ。
 母さんもあたしが3歳の時にやられて、それから父さんがこの町を出て行き・・・じいちゃんがあたしを育てた。
 あらゆる武道を習わせたのも、ちゃんと戦える技術を、あたしに身に付けさせる為。
 今になってそれが、痛いほどよく分かる。


「って、これがこの町の現状なの。出て行くなら止めはしないよ、久遠くん。それは、この町の人達が決めた唯一の、自由だから」


 わざと明るく、あたしは言った。
 ここで湿っぽくなっちゃったら、優しい久遠くんは、正常な判断が出来なくなるから。
 軽く考えても、やっぱりこの町には住まない方がいいよね。
 うん、そう思う。
 あたしは、変わらずに短刀を見つめている久遠くんの方を見た。


「これ・・・触ってもいいか?」


 不意に、久遠くんはこう言った。


「え、これ? 持ってみるくらいならいいけど、布から出さないでね。コイツ、布から出たくて仕方ないの」
「コイツ?」
「あぁ、この短刀の事。さすが呪われているだけあって、なんだか生きてるみたいに感じるのよ。ま、自分の生死を預けるものだから・・・愛着感じてるだけかもしれないけどね」


 言いながら、あたしは久遠くんに包みを渡した。
 両手でそれを受け取ると、久遠くんはさっきよりも真剣に包みを見つめている。
 何だろう?
 そんなにこの短刀に興味あるのかな?