下町退魔師の日常

 祠を動かしたのは、松嶋の一族だ。だから松嶋の人間には責任がある。
 鬼が来たら、一族の誰かを喰わせろ。
 そんな風潮が、いつの間にか村中に広まっていった。
 村人は誰も反対しなかったらしい。
 村八分状態になったご先祖様は困り果てる。
 知らなかった事とは言え、祠を動かしてしまったのは自分達だから責任は感じているけど・・・かといって、鬼が出て来る度にウチの人間を犠牲にするなんて、出来る筈もない。
 困り果てた松嶋のご先祖様が権威あるお寺に相談しにいった所、1本の短刀を渡された。


「それが、この短刀?」


 久遠くんの言葉に、あたしは頷く。


「でもね、そのお寺の住職は言ったの」


 魔物を封印してある祠を動かしたのは、確かに不注意だった。
 封印というのは、邪気を根本から断ち切るものではない。
 ただ、閉じ込めておくだけ・・・。


「呪いの根本を断ち切らなきゃならない」
「うん、そうよ。でもその住職でさえ、根本的な原因というのは分からなかった」
「だから、戦う道を選んだのか」


 その言葉に、あたしは頷く。
 そして住職さんは、短刀をご先祖様に渡す時にこうも言ったのだ。


『この短刀もまた、呪いがかかったものだ。使えるのは女のみ』


 女性だけが使える短刀。
 それにも、呪いがかかっている。
 その呪いとは。


「この短刀は、満足するまで血を望んでいる。どこまで血を吸えば満足かは、誰も知らないけど・・・血を吸う為なら、その使い手に、できる限りの助力をするだろう」


 言いながら、ちらりと久遠くんを見た。
 久遠くんは何も答えず、短刀を包んだ布に視線を落としていた。
 あたしのご先祖様は、それでも、渡された短刀を手に取った。
 呪いだろうが何だろうが、一族が犠牲にならずに済むのなら、生きられる可能性があるのなら、これに掛けよう。
 短刀は血を望んでいると言うが、人間の血ではなく魔物の血を吸わせればいい。
 松嶋が置かれている状況に、この短刀はぴったりだと。
 そして、次に鬼が来た時、松嶋の一族の女性がその短刀を持ち、鬼と戦った。
 結果は・・・見事勝利。