下町退魔師の日常

 それを告げる事は苦痛ではなくて、義務だと思っている。


「あたしのもう一つの仕事・・・それはね、退魔師なの」
「退魔師?」
「うん。さっきみたいに、あの祠からこっちに出てくる異形の者をやっつけるのが、あたしのもうひとつの仕事」


 松の湯の裏にある空き地。
 そこにある祠から不定期に出て来る魔物を退治する。
 その役目を担うのは、代々この松の湯の人間だった。


「どうして?」
「・・・元々あの祠はね、魔物を封じ込めておく為のものだったらしいの。そしてね、昔々・・・じいちゃんのじいちゃんが生きていた時に、この松の湯を建てるって言って、あの祠をほんの少しのだけ、動かしたの」


 そう。
 元々は、これが始まりだった。
 魔物を封じ込めておく祠だとは知らずに、松の湯を建てたいが為に、ほんの少し・・・そう、たった20メートルくらい。
 魔物を封印したお札だかお経だか仏像だか知らないけど、祠の中身はそのままで。
 だけど、結果その封印は一気に解かれた訳ではないんだけど、とても緩くなってしまったらしい。
 じいちゃんのじいちゃんが生きていた時代のある日、祠の扉が開いて、一匹の鬼が出て来た。
 鬼は逃げ惑う住人の一人を襲うと、生きたまま食べてしまったらしい。
 それを目の当たりにした村人は慌てふためいたけど、鬼は一人を喰らうとそのまま大人しく元の場所に戻って行った。
 それ以来、鬼は不定期にこちらの世界にやって来ては、人間を一人だけ喰らって帰っていく。
 被害がいくら最小限に抑えられようとも、業を煮やした村人たちが怒りの矛先を向けたのは、あたしのご先祖様・・・松の湯の一族だった。