下町退魔師の日常

 松の湯の裏には、そんなに広くない空き地がある。
 ただ、その空き地の周りを大きな樹木が囲んでいるから、ここは昼間でも薄暗い。
 空き地の一番奥には小さな祠(ほこら)があった。
 よく通りに見掛けるような、何処にでもある道祖神をお祀りした祠。
 ちょっと見ただけでも、相当古いものだと伺える。


「この前はミッキーの結婚式当日だったよね。間に合わないかと思って焦ったよ」


 サスケに話し掛ける。
 そんな言葉には耳を貸さず、サスケは緊張感を持って、祠を見つめていた。
 ――・・・どくん。
 ――・・・どくん。
 右手に持った包みが、また脈打つ。
 早く出して。
 コイツはいつも、自分の出番を待っている。
 ただならぬこの気配を、ちゃんと感じ取っているのだ。
 そして、あたしがコイツを手に取る時には、糧となる血を吸える時だって事も。
 気配が色濃くなるにつれて、脈動は一層激しさを増していく。
 もうちょい待ちなさい、あんたがどれだけ血を望んでるのか知らないけれども。


「・・・あれ?」


 そこまで思って、あたしは思い出した。
 久遠くんも“そう”だ。
 彼も、血を望んでる。
 だから、偶然とは言えこの町にやってきたのかな。
 この町の、遥かいにしえよりの、決して切れない鎖の連鎖。
 何と呼んでもいいって、あたしは思っている。
 でも、一番簡単に表現出来る言葉・・・それは。


『呪い』だ。


 ずっとずっと昔から――じいちゃんのじいちゃんの時代から、この町は呪われている。
 和気あいあいとみんなが平和に暮らしている、こんなにいい町なのに。
 あたしは、右手でぎゅっと包みを握り締め、目を細めた。


「――来る」


 低く呟いて、あたしは身構える。
 祠の扉がガタガタと揺れる。
 同時に、言い表せないような禍々しい気が、祠から溢れてきた。
 全身に鳥肌が立つくらいの邪気。
 ・・・バタン!!
 祠の扉が、勢い良く開いた。