下町退魔師の日常

「さ、行こうか」


 立ち上がったその時、じいちゃんが使っていた部屋の襖が開いた。


「どっか・・・行くのか?」


 もう起きていたのか、久遠くんはパジャマ代わりに着ていたスウェットじゃなく、ジーンズに着替えていた。
 あたしは振り返らずに、包みに視線を落とす。


「うん。申し訳ないけど、今日は松の湯はお休みよ。町の人達も知ってる」


 それどころか、松の湯の前の通りにも、今日はいつもの賑やかさはない。
 外には誰一人、歩いていない。


「何かあったのか?」


 ただならぬ雰囲気を感じとったのか、怪訝そうに聞いてくる久遠くん。
 あたしは、迷う。
 まだここに来て何日も経ってないけど、久遠くんはずっとここにいるつもりなのだろうか?
 それとも・・・いつか自分の居場所を見つけて、居なくなってしまうのだろうか?
 この町の秘密。
 今ここで、話すべきなのだろうか?
 迷っていると、包みを持った両手が、ドキンと脈打った。
 この包みの中のものが鳴動している。
 早くここから出して。
 まるで、そう言っているようだ。
 ――・・・それに。


「ニャー!!」


 サスケが背中の毛を逆立てて、大きく鳴いた。
 体勢を低くして、いつでも動けるように臨戦態勢に入っている。
 ・・・時間が、ない。


「ごめん、悪いけど出掛けて来る。久遠くん、今日はここから出ないでね」
「何でだ?」
「今は説明してる時間はないの。この町に居たかったら、ちゃんと言う事聞いて。それだけは絶対に守って・・・お願い」


 そう言って、あたしは部屋を出て行く。
 後からサスケもついて来る。
 階段を降りて松の湯から外に出ると、あたしはそのまま銭湯の建物の裏手に回った。