まだ嫁入り前の娘がこんな大それた事言うなんて・・・とか言わないでよ。
 あたしだって顔から火が出そうな程恥ずかしいんだから。
 でも、行く場所がない久遠くんをこのまま放っておけないじゃない。


「ありがとう」


 そんな言葉が聞こえて、あたしはハッとして顔を上げた。
 久遠くんの笑顔。
 やっぱり、素敵かも。


「借りてた二百円、ちゃんと返すから」
「あっ・・・当たり前よ。じゃ、早速仕事・・・」


 って、言いたいところだけど。


「ああっ! サスケ、サンドイッチ!!」


 テーブルに置きっぱなしだったサンドイッチを引きずり下ろして、サスケが美味しそうに食べていた。
 しかも2個とも!!


「ったく~! それは久遠くんの・・・」
「マツコ」


 いきなり呼ばれて、あたしは振り返った。
 なんか、今までで一番、この名前を付けられた事が悔しいような気がする・・・。
 もっとこう、オシャレな名前で、久遠くんに呼ばれたかった・・・。


「・・・何でしょう・・・?」


 力なく返事をすると、久遠くんがこっちに手を差し出した。


「もう二百円、貸してくれるか? コンビニで買ってくる」


 ったくぅ。
 空気読めない人間がまた1人、この町に増えたわね。


「やぁよ。ちょっと待ってて、食パンあるから。朝ご飯、すぐに作るよ」
「分かった」
「じゃ、出来るまで休憩室の掃除してて。サスケが食べ散らかしたし」
「あぁ」


 久遠くんに掃除用具の場所を教えて階段を上がる時、何だか顔がニヤけてしまった。
 やだ、朝ご飯作るとか、何かマジで新婚さんみたい。
 どうしよ、じぃちゃんが居なくなってから、誰かに朝ご飯作るなんてしたことなかったから・・・照れる。
 さっきまで泣いていたのに、あたしったら久遠くんが帰って来た途端、こんなに喜んでる。
 なんか・・・ヤバいです。
 こんな感情、久しぶりだ。
 大人だから、これが何なのか、いちいち悩んだりはしない。
 ――・・・あたし。
 いきなりこの町にやって来た、会って間もない久遠くんに。
 不思議な雰囲気を漂わせている彼に。
 少しだけ、好意を――抱いたのかも、知れない。