下町退魔師の日常

 思い止まる事もなく、勢いで言ってしまう。


「出て行って! 今すぐ、この町から!!」


 入り口を指さして。
 ハァハァと息を荒くしているあたしを一瞥して、久遠くんはゆっくりと立ち上がると、出て行った。


「にゃぁ・・・」


 尋常じゃなく興奮状態のあたしに、サスケが寄ってくる。


「あんたも・・・二度と連れて来るんじゃないわよ、あんなヤツ」


 そう言い捨てて、あたしは力なくソファに座った。
 きっと、昨日から大殺界に突入したんだわ。
 ナイフに始まり。
 ――・・・ん?
 ナイフ。
 確か、小銭入れのお菓子の箱の横に仕舞ってた筈。
 でも、今朝見た時には、ナイフは引き出しに入ったままだった。


『血が見たいんだよ』


 不意に、そう言った時の久遠くんの表情が頭の中に蘇る。
 苦しそうで、切なそうで。
 どうして、あんな顔してたんだろう・・・。
 成り行きで一晩泊めちゃったけど。
 久遠くんは、あれからきっと寝てないんだ。
 コーヒーも飲んでないし。


「・・・・・・」


 あたしは、出しっぱなしだった久遠くんのコーヒーカップを手に持つと、流しに捨てた。
 どうしてなんだろう。
 そればかり、考えてしまう。
 ホントに悪いヤツなんだろうか。
 ちゃんと話を聞いてたら、もっと違う角度から、彼のことを見れたんじゃないか。
 そう思ったら、何だか可笑しくなってきた。
 だってそうでしょ?
 あたしったら、久遠くんの何を知ろうとしたいんだろう。
 何だか、彼の違う面を見たがってる感じ。
 ホントはそんなに悪いヤツじゃないんじゃないかって、それを裏付けたかった。
 サスケが連れて来た、町の外の人間。
 言ってみれば、町外れの橋の下に捨てられていたサスケも、他所から来たんだ。
 この町はいい。
 ううん、この町の人間に、悪いヤツなんていない。
 だから入り口のセンサーもスイッチ入れた事なかったし、番台の引き出しに無造作にお金を置いていても気にならないのだ。
 そしてこの町の人達は、他所から来た人でも猫でも、ここに落ち着こうとしている人には、みんなが親切にしてくれる。
 ――・・・でも。