下町退魔師の日常

 久遠くんはまた、休憩室のソファに座った。
 そして、コンビニの袋をテーブルの上に置く。


「何を買ってきたの?」
「朝メシ」


 あたしの質問に短く答えて、久遠くんは袋から、サンドイッチを取り出した。
 その途端、急激に空腹を感じる。
 そう言えば・・・昨日は、あのまま布団に倒れ込んで、何も食べずにすぐに眠りに落ちたんだ。
 空腹よりも眠気が勝つなんて・・・相当疲れてたんだわ、あたし。


「食うか?」


 あたしが余程物欲しそうに見てたのか、久遠くんはサンドイッチのひと切れを、こっちに差し出した。


「え? あ、あはは・・・いいよ、大丈夫」


 慌てて両手を振りながら、あたしは謹んでお断りする。
 だって、曲がりなりにも大人の男が、サンドイッチひと切れだけで満足する訳ないじゃない?


「遠慮すんな、俺はひと切れだけでいい」
「・・・そう?」


 じゃ、頂こうかな。
 コンビニのサンドイッチなんて最近食べてないから美味しそうだし。
 久遠くんの前のソファに座り、差し出されたサンドイッチに手を伸ばしかけた時。


「二百円、借りた」
「は???」


 そのまま、固まってしまう。


「借りた、って・・・何処から?」


 聞くと、久遠くんは番台に視線を送った。
 はぁぁぁ!?
 まさか、昨日の売り上げに手ェ出したの!?
 二百円って、そりゃ金額的には少ない数字かも知れないけど!
 売り上げを番台の引き出しにあるお菓子の空き箱にそのまま入れてるあたしも悪いかもだけど!
 人んちに乗り込んで来て、ナイフちらつかせて、一晩泊まった挙げ句に売り上げ勝手に使ったぁ!?
 しっ・・・信じられない!
 あたしは、今まさに口に入れようとしている久遠くんのサンドイッチを、ひったくるようにして取り上げた。
 キョトンとして、こっちを見つめる久遠くん。
 構わずに、あたしは怒鳴る。


「勝手に人んちの中、漁ってんじゃないわよ!」
「借りただけだろ」
「返せばいいって問題じゃないでしょ! その行為自体が犯罪よ!」


 そうよ、立派なドロボウだわ!
 殺人未遂だけじゃなく!
 そこまで考えたら、あたしの口はもう止まらなかった。