下町退魔師の日常

 ぞわっ、と悪寒が走り、あたしは身震いした。
 今はナイフを取り上げられて、大人しくしているけど。
 このまま久遠くんを松の湯の外に出したら・・・また、何処かの家に押し入るかも知れない。
 果物ナイフくらい、コンビニで売ってるだろうし。
 幸いあたしは、もしも久遠くんがまた襲って来ても撃退する自信がある。
 そんじょそこらの男にも喧嘩じゃ負ける気がしないんだから、こんな細っこい久遠くんなんてひと捻りだ。
 悩んだのは一瞬だけで、あたしは黙って立ち上がると、二階から毛布を持って来た。


「外は冷えるし、もう遅いし、朝までそこで寝ていいから。でも明日になったらこの町から出て行って」


 松の湯の入り口には、お客さんが来るとチャイムが鳴る赤外線センサーが付いている。
 コンビニとかによくある、あれ。
 ま、取り付けたものの、あまりにも人の出入りが激しいこの松の湯じゃうるさ過ぎるとか言って、じいちゃんの代からずっとスイッチは切りっぱなし。
 だから使ってはいなかったんだけど。
 ここで役に立つとは、思わなかった。
 この人は、今ここから出してはいけない。
 けど、朝まで監視するなんて・・・疲労がピークなあたしには無理だ。
 かといって、二階で一緒にいるのも嫌だ。
 で、出て行ったらすぐに分かるように、センサーのスイッチを入れて、と。


「サスケ! 寝るよ」


 あたしは既に寝ているサスケを、無理矢理久遠くんの膝から抱き上げる。
 サスケは迷惑そうに「にゃー・・・」と鳴いた。
 ったく、自分だけのほほんとしてんじゃないわよ。
 この2時間で、あたしがどんだけ心労を重ねてると思ってんのよ。
 あたしは、サスケを抱いたまま二階に上がった。
 階段を登る時にちらっと久遠くんを振り返ったけれど、彼はさっきと変わらない体勢で、無言でソファに座ったままだった――。