かと言って、あたしももう大人になり、この【松の湯】を継いだ今となっては、その歴史の重みを少しだけ感じたりもしている。
 そして、その歴史に負けず劣らずいぶし銀な雰囲気を醸し出している、木で出来た番台に座るのが、あたしは好きだった。


「じゃ、今日もいっちょ頑張りますか!」


 そう言って、外観もまるで江戸時代の湯屋みたいな建物の入口の引き戸を開けて、足取りも軽やかに番台に向かう。
 あたしの歩調に合わせて、トレードマークの短めのポニーテールがぴょこぴょこと揺れた。




☆  ☆  ☆




 先にも触れたけれど、この【松の湯】は、下町唯一の、多分江戸時代から続く老舗の銭湯だ。
 だけど今の世の中、温泉ブームに押されて銭湯なんて何処も閑古鳥が鳴いている状態。
 ・・・だなんて、誰が言ったの?


「おはよー・・・」


 午後3時。
 営業が始まると同時に毎日のようにやって来る、ピンクのジャージの上下に、後ろで無造作にひとまとめにした金髪に近いくらい明るい色のロングヘア。
 まさに寝起きそのままのスッピンで、眉毛なんて余程注意しないと見付けられない。


「おはよ、ノリカちゃん」


 だるそうに片手を上げてお金を番台に置いて、ノリカちゃんはアクビを噛み殺しながら口を開く。


「昨日お客にアフター付き合わされちゃってさぁ・・・も、朝までよ。どんだけよ、勘弁してって感じ」


 ま、それも仕事のうちなんだろうなと思いつつも、あたしは、大変だったねぇなどと相槌を打つ。
 ノリカちゃんは、この近くの家賃3万5千円の激安アパートに住むキャバ嬢だ。
 アパートには風呂がなく、出勤前にいつもここでお風呂に入り、着替えも化粧もバッチリと決めてから都会の方へ出掛けていく。