久遠くんはその場から動かずに、前を見つめたまま、言葉を紡ぐ。


「鬼姫は・・・本当に、鬼になったのかな?」
「――え?」
「侍と恋に落ちて、結局結ばれずに・・・この世の全てを憎んで、死んでいった。でも、本当にそれだけで、鬼なんかになると思うか?」


 あたしには、何にも答えられなかった。
 どうしたんだろう、久遠くん・・・。
 現実にこの町は、鬼姫の呪いによってずっと苦しんできた。
 経緯がどうであれ、鬼姫は魔物と化してこの町の人々を脅かしているんだ。
 あたし達は今夜、その元凶を絶とうとしているんじゃないの?
 ・・・でも。
 あたしは改めて、久遠くんの横顔を見つめた。
 久遠くんだって、この呪いによって苦しめられてきた一人なのに。
 ――どうして、そんなに悲しそうに、祠を見てるの?
 ううん、違う。
 久遠くんは、思いを馳せてる。
 遠く・・・時を経て尚、その存在を知らしめている鬼姫に。
 ・・・そっか。
 久遠くんは、鬼姫と侍の血を引いている。
 だからどっちかって言うと、鬼姫と敵対する理由は・・・ないんだ。
 鬼姫を倒そうとしているのは、あたし。


「久遠くんは・・・どう思うの?」


 あたしは聞いた。
 久遠くんは肩越しに、こっちを見て。


「確かめてみたいんだ」
「鬼姫が、本当に鬼になったかどうかを?」


 あたしが聞き返すと、久遠くんは小さく頷いて、また祠に視線を戻した。
 あたしも、祠と久遠くんの背中をを見つめ、考えを巡らせる。


「久遠くん」


 少しの間を置いて、あたしは久遠くんに声をかけた。