下町退魔師の日常

「面白いよな、シゲさんって」


 笑いながら、久遠くんは言った。
 ・・・これに対しての感想はそれだけですか、久遠くん。
 あははは、と苦笑しながら、あたしは内心複雑な気分だった。



☆  ☆  ☆



 昼間からの大宴会は、夕方になると大分落ち着いてきて。
 辺りが夜の帳に覆われようとする頃、殆どの人達が、それぞれの家に戻って行った。
 いつもの如く。
 松の湯は、あれだけの大騒ぎがあったとは思えないくらい、キレイに片付いていて。
 ここにいるのは、あたしと久遠くんとサスケ、そして幹久とシゲさんだけだった。
 休憩室のテーブルには、ノートと短刀が置いてある。
 父さんのノートは、さっきから幹久がパラパラとページをめくっている。


「二人とも、帰る気ゼロだよね?」


 あたしは一応、聞いてみた。
 二人とも、見事に無視してくれてる。
 うん、帰る気ゼロだな。
 あたしは軽くため息をついた。


「久遠」


 幹久はノートを閉じてテーブルの上に置くと、久遠くんを呼んだ。
 そして、顎をしゃくって外を示すと、久遠くんを店の外に連れ出す。
 黙ってそんな幹久に付いて行く久遠くん。
 どうしたんだろ?


「マツコ」


 外に出て行った二人を目で追っていると、シゲさんがあたしに声を掛ける。
 静かに、タバコをふかしながら。


「不思議だなぁ」
「何が?」
「20年前よりも、緊張感がねぇんだよ」


 そりゃあ、あの時はそれなりの人達が何十人も集まって、これでもかっていうくらい物々しい雰囲気だったんだろうし。
 それに比べたらあたし達なんて、みんなでワイワイ宴会してるし。


「・・・いや、そんなんじゃねぇな」


 シゲさんは言って、タバコの煙を吐き出して。
 サスケが煙たそうに、鼻を鳴らす。


「マツコ・・・お前だから、だろうなぁ」


 一言一言、噛み締めるようにシゲさんは言葉を紡ぐ。
 あたしだから?


「おめぇはな、婆さんや母ちゃんよりも力のある退魔師だよ。だから俺達も、今まで安心して生きて来れた」
「そんな事ないよ、ばあちゃんだって母さんだって、立派な退魔師だった」
「確かにな。ま、俺は婆さんとの間に子供は出来なかったからなぁ、マツコの成長なんて、我が子の・・・じゃ、あまりにも可哀想か。我が孫みてぇに思ってたからなぁ」


 うん。
 ホントに、あたしは小さい頃から、シゲさんとシゲさんの奥さんに、物凄く可愛がられてた。
 二人の顔を見なかった日なんてないって言うくらい。