下町退魔師の日常

「昨日みんなで集まって話し合いをした時、シゲさんに怒鳴られたんだよ。あんなに怒ったシゲさん、初めて見たよ」
「怒鳴った?」


 何でよ。
 あたしは、シゲさんを見た。
 当の本人は、そ知らぬ顔でそっぽを向いている。


「梅田のおばあちゃんが言ったようにね、この町の唯一の自由を、自分たちの都合で勝手に曲げるなってね。だから・・・」


 幹久のお母さんは、次の言葉を飲み込んだ。
 代わりに口をついて出たのは、大きなため息だった。


「あたしらも、今夜はいつもどおり家に居るよ。この町はね、マツコちゃん。大昔から退魔師と運命を共にしてきたんだ。みんなそれなりに覚悟もできてる。だから・・・この町に縁があってやってきた久遠くんも、あんたの好きにしてくれて構わないよ」
「おばさん・・・」
「ホントにごめんなさいね、久遠くん」


 おばさんは、また小さく謝った。
 久遠くんは笑う。


「俺は何も気にしてませんよ。だけど、鬼姫の件は引きませんから」
「あぁ・・・分かってるよ。何にしろ、引き金になったのはあたしらにも原因があるんだから」


 ち、ちょっと待ってよ。
 町の人達と久遠くんの和解とか、そんなのを望んでるんじゃないの、あたしは。
 むしろ、ここで和解なんてしなくていい。
 あたしなんて、憎まれてもいい。
 それよりも大事なことが言いたいのに。


「みんな聞いて。あたしが言いたいのは、この戦いはあたしの身勝手だからって事で・・・!」
「はいはーい、も、無駄な足掻きは止めた方がいいと思うよ。この人たち、マツコちゃんの言う事、ぜんっぜん信じてないもん」


 右手の壁に寄りかかって立っていたノリカちゃんが言った。


「信じてない・・・って?」
「嘘が下手だって言ってんの。絶対に水商売向いてないよね、マツコちゃんは」


 あ、でも銭湯だからある意味水商売だよねぇ、とか、ノリカちゃんはタカシくんと一緒に笑っている。
 ――・・・まさか、もしかして。
 ここにいる全員、鬼姫と戦うあたしの理由、信じてない?
 その証拠に、誰も出て行こうとしない。
 なんでよ!?


「諦めろまっちゃん。ここの連中はなぁ、昔から頑固なんだよ。下町気質っていうんだろうな」


 幹久まで。
 シゲさん、若者のお酒、勝手に飲んでるし。


「作戦第一弾、見事に失敗だな」


 久遠くんがそう言って、ため息をついた。
 昨日二人で話し合ったこと。
 まず、町の人達を避難させるのが第一だって決めたのに。


「お前の嘘が下手くそだから」
「なっ・・・何よ、じゃあ久遠くんからみんなを説得してよ!」
「マツコに出来なかったんだ、俺に出来る訳が無いだろ」


 簡単に諦めないでー!