「あーあたしね、当分タカシと一緒に暮らす事にしたの。前のアパート引き払っちゃってるし、新しく借りる敷金礼金もないし」
「・・・・・・」


 ビックリした。
 ビックリし過ぎて、何のリアクションも取れなかった。
 どっ・・・どういう経緯で、こんな事になっちゃってるのよ!?


「ノリカちゃんが引っ越したマンションがたまたま、僕のバイト先の居酒屋の近くだったんですよ。それで、ノリカちゃんがたまたま一人で飲みに来て・・・」


 うん、それは分かった。
 それがどうして、一緒に暮らすなんて事になってるの?


「タカシってさ、ホント聞き上手なのよ。一緒にいてもね、何にもストレス感じないの。空気みたいだけどさ、落ち着くっていうかー」


 ノリカちゃん。
 事情はよぉく分かったけど、そんな熟年夫婦みたいなセリフがノリカちゃんの口から出て来るなんて、思わなかったわ。
 でもね、これだけは言ってあげたい。


「お帰りなさい、ノリカちゃん」


 笑いながらそう言うと、ノリカちゃんも心なしか、はにかむように笑顔を作った。


「ただいま。またこの町に戻って来れて良かったよ。ホントはさ、久しぶりにここのお風呂に入りたかったけど・・・今日は休みなんでしょ?」
「うん、ごめんね」


 事が済んだら、いつでもお風呂に入りに来て。
 あたしは、その言葉を口には出さなかった。
 今の時間にやって来たって事は、ノリカちゃんとタカシくんも、何でみんなが集まっているのかを知っている筈だから。


「まぁいいよ。あたしやっぱこの町好きだし。一回出て行ってみて、よぉく分かった」
「そう、だね・・・」


 この町は、出て行くのも帰ってくるのも自由。
 そんなフレーズが、頭の中に浮かんだ。
 ノリカちゃんは少しだけ笑って、人でごった返す休憩室を見渡す。


「ね、久遠くんは? 久しぶりに顔見たいな」
「久遠くんなら人だかりのどっかに・・・」


 あたしが言うが早いか、ノリカちゃんは女子高生に囲まれている久遠くんを見つけて、人混みをかき分けてそっちに行ってしまった。
 ちょっとどいてよ、と女子高生達を退けて、久遠くんの隣に陣取る。
 そんな様子を見て笑顔を浮かべながら、あたしはタカシくんを見つめて。


「凄いじゃない、タカシくん。恋愛成就ってヤツ?」
「いやそんな・・・」


 あからさまに嬉しそうに、頭の後ろをポリポリと掻きながら照れているタカシくん。