下町退魔師の日常

☆  ☆  ☆




 その夜。
 ていうか、深夜。
 あたしと久遠くんは、松の湯の屋上に佇んでいた。
 屋上と言っても、煙突の横の小さな足場スペースなんだけど。
 何となく、二人で星空が見たくなって。
 幸い今夜は雲ひとつない快晴で、もう少しで満月になるくらい大きな月と満天の星が、これでもかって言うくらい輝いていて。
 そよ風も、何だか心地よかった。
 あたしは膝を抱えて、そんな夜空を見上げている。
 何百年も前から、この夜空はきっと変わっていないんだろうな。
 大昔の人達もきっと、こんな夜は夜空を見上げていたに違いない。
 鬼姫ももしかしたら、侍と一緒に星を見上げていた事もあったかも知れない。
 今のあたし達みたいに。
 大切な人と、二人並んで。
 あたしは横目でちらりと、久遠くんを見た。
 サラサラのストレートの髪の毛をそよ風になびかせて、黙ったまま夜空を見上げている。
 星明かりに、その綺麗な顔立ちが映える。


「・・・ん、どうした?」


 久遠くんがこっちに気付いて、笑いかける。
 あたしは慌てて、目を逸らした。
 ヤバイ、何か言わなきゃ。


「あっ・・・あのね、地上の景色は変わっても、空は何百年も昔から変わらないんだなぁって・・・そう思ってたの」
「そうだな・・・鬼姫も、こんな夜空を見上げていたのかもな」


 あ。
 同じ事考えてたんだ、久遠くん。


「あのね・・・」


 町はもう寝静まって、やたらと静かに夜は更けていく。
 こうしてると何だか、自分がこれから何を仕出かそうとしているのか、分からなくなりそうで。
 だから、敢えて言う事にする。


「ごめんね、久遠くん」


 そう言うと、久遠くんは不思議そうに首を傾げた。