下町退魔師の日常

 鬼姫を退治するのは、あたしの独断だ。
 町の人達の同意を得ずに、勝手に意気込んでいるだけなんだ。
 表向きは、この町を救うため・・・なんて大袈裟な大義を掲げているけど。
 本当は、自分の為だ。
 久遠くんと一緒にいたい、久遠くんを一人にさせたくない。
 久遠くんに、ここから出て行って欲しくない。
 その一心で、この町の人達全員を危険な目に遭わせようとしている。
 20年前の惨事を知らない、あたしの年代より若い人達は、何とか賛成してくれても。
 幹久のお母さん世代から上の人達は、反対するだろう。
 最初はシゲさんだって、大反対だったんだから。
 もし、あたしの我が儘で見切り発車して、この町が大惨事になってしまったら。
 おまげがぴょんぴょん揺れているエリナちゃんみたいにまだほんの幼い子供や、これから生まれてくるエリナちゃんの弟か妹とか。
 幹久の奥さんだって、お腹に新しい命を宿したばかりなのに。
 あたしは、そんな人達のこれからの人生を左右するような戦いを、あたしの独断で勝手にやろうとしているんだ。
 あたしこそが、偽善者じゃないのか。
 自分の欲望の為だけに、この下町の住人全員を危険な目に遭わせて、平気でヒーローぶって。


「マツコ」


 固まってしまったあたしの膝に、久遠くんは手を添えた。
 大きくて、あったかい手だ。
 あたしはゆっくりと、顔を上げる。


「重いか?」


 久遠くんは聞いた。
 うん。
 正直、重いなんてもんじゃないよ。
 あたしなんていうちっぽけな存在、一瞬で潰されちゃうよ。
 ーー・・・でも。
 久遠くんの温もりが、そんなあたしに少しだけ勇気をくれる。


「大丈夫」


 あなたと、一緒なら。
 それを言葉にするには、何となく恥じらいがあったけど。
 きっと、分かってくれる・・・よね、久遠くん?
 あたしは、そんな思いを込めて久遠くんを見つめた。


「俺がいる」


 伝わる、思い。
 膝の上に置かれた久遠くんの手に、自分の手を添えた。


「俺もいるんだけどな」


 ソファーの背もたれに寄り掛かり、頭の後ろで両手を組んで幹久が言った。
 あたしは、慌てて久遠くんから手を離す。


「ありがと、幹久も」
「俺はついでか」


 拗ねる幹久に、あたしは苦笑して。


「何であんたが拗ねるのよ」
「拗ねてねぇよ!」
「でもさ、町の人達には知らせない方がいいと思う」


 何でだよ、と幹久は食い下がって、反論してきた。


「ジジババ年代は反対かも知れねぇけどな。少なくとも俺達若い世代は、まっちゃんに賛成してる。この町の未来に関わる大事な事なんだし、何か手助けしたいと思うのは当然だろ?」
「でも・・・」
「何でもお前一人で抱え込むんじゃねぇよ。いいな、お前らだけを危険な目に遭わせる訳にはいかねえんだ」


 正直、そこまで言ってくれるのは嬉しい。