下町退魔師の日常

 うん、これはホントに本音だ。
 寂しいのだ。


「うん。この町を出て行っても、ここには来るよ。あたしも寂しいもん」


 こう言ったノリカちゃんの言葉も、心底本心から言っているのだと思った。
 それも、分かる。
 だけど、頭では。
 あたしは、この下町の住人がここを出て行くのは、大歓迎だ。
 むしろ、この町にいない方がいい。
 それだけは、キッパリと言い切れる。
 寂しいとか寂しくないとかは感情の問題であって、理性の部分では、この下町ごとなくなればいいとすら、思っている。
 これだけ人情味溢れていて、これだけ和気あいあいと生活出来る町なんて、世界中探してもここにしかない。
 ――・・・でも!


「みゃあぉ」


 ノリカちゃんが脱衣所に消えた後、サスケがガサガサとビニール袋を口にくわえて、あたしの足元に擦り寄ってきた。
 ・・・あ。
 エリナちゃんのママから貰ったかつお節。


「あんたねぇ・・・今日仕事サボった癖に、食い気だけはしっかりあるのね」


 サスケは何処かの誰かさんと違って、トコトン空気が読める猫だ。
 あたしが頑なになったから、助け舟を出してくれた。
 ・・・そうだね、ごめん。
 心の中で謝って、2階へ上がると昨日の残りご飯と貰ったかつお節で、猫まんまを作ってあげる。
 番台の横で、サスケは美味しそうにそのご飯を食べていた。
 何げに時計を見たら、11時45分だった。
 ノリカちゃんが長風呂なのは、いつもの事だ。
 今日みたいに嬉しい事があった日には、心行くまでゆっくりとお湯に浸かって貰おう。
 そう思い、あたしは軒先に掛けてあった暖簾を外して、入り口の横に立て掛けた。
 ご飯を食べ終わったサスケは、優雅に毛づくろいを始めている。
 あぁ、あたしのご飯も作らなきゃ。
 昨日の残り物で簡単に済ませようかな。