下町退魔師の日常

 だって、あたしは今までの日常を覆そうとしているんだもん。
 でもそれは、他の町から見れば普通じゃない日常で。
 でも、町の人達は、他の町のような普通の日常を望んではいないんだ。
 鬼姫がーー彼女の思念が、あまりにも強すぎて。
 20年前、40人からの命を一晩で奪った鬼姫。
 それでも。
 放っておいても、いずれ鬼姫は必ず復活する。
 短刀ちゃんが、お腹いっぱい満足するまで血を吸ったら。
 その贄を糧に鬼姫は最強の力を持って復活し、今度は自らの手でこの町の人達を殺そうと企んでいる。


「早いか遅いかの違い、か・・・」


 ホントに小さな声で、あたしは呟いた。
 久遠くんはちらりとこっちを向いたけど、何も言わずにまたノートに視線を落とす。
 と、その時、松の湯の入り口の戸が開いた。


「・・・よぉ」


 顔を上げると、幹久がそこに立っていた。


「あぁ、幹久」


 あたしが声を掛けると、幹久はこっちに歩み寄って、ビニール袋をテーブルにどかっと置いた。


「差し入れだ」


 コンビニの袋の中身は、ジュースとサンドイッチ、あとチョコレート。


「ありがと、でもどうしたの?」


 袋の中身を覗きながら、あたしは幹久に問い掛ける。


「今日は朝から商店街の空気が重くてな。うちのおふくろも元気なかったから、問い質したんだ」


 休憩室の椅子に座り、幹久は神妙な面持ちで言った。


「すまない、久遠。うちのおふくろと町の連中が、とんでもない事言い出したんだってな」
「ん? ・・・あぁ」


 母さんのノートから視線を上げると、久遠くんは幹久に笑顔を向けた。


「気にすんな。別に何とも思ってねぇよ」
「でも、あと3日でこの町を出て行くっつったんだろ?」
「それなんだけどね、幹久。あと3日のうちに、勝負する事にしたから」


 あたしの言葉に、幹久は少しだけ驚いて、それから納得したような表情を浮かべて。


「そうか・・・そうだよな」


 腕組みをして、何度も頷いて。