下町退魔師の日常

 久遠くんがこの町を出て行く必要もなくなる。
 全て、万々歳だ!
 良かった、本当にただ出て行くつもりだったんじゃないんだ。
 ちゃんと、考えてくれてたんだ。
 よぉし!
 あのやたら細かい文字のノートを解読してやる!
 父さんが残した、鬼姫の資料を。


「そうと決まれば、あたし早速父さんのノート、ちゃんと読んで来る!」


 大喜びで階段を登るあたしの背中を、久遠くんはただじっと見つめていた。




☆  ☆  ☆



 ――その夜。
 あたしは松の湯の休憩室で、父さんのノートを読みふけっていた。
 目の前では久遠くんが、サスケを膝の上に乗せながらばあちゃんと母さんの戦闘日誌を読んでいる。
 松の湯の軒先には、営業中であることを示す暖簾はかけられていない。
 たまに来てくれるお客さんには申しわけないけど、今日は休業していると告げる。
 それにしても、父さんのこのノート。
 殆どが、25年前にここに集まった仲間の事と、どうやって鬼姫を誘い出すのか、そんな試行錯誤をまとめたものだ。
 呪符を使って鬼姫に自分が侍だと思わせて誘き出す作戦も、父さんが考えたものだったらしい。
 そうだよね。
 あの祠の扉は、向こう側から開けない限り、こちら側からは開かない。
 どう言うカラクリなのか知らないけど、人間の手では決してあの扉は開けられないのだ。
 という事は。
 扉を開ける、もしくは鬼姫をおびき出すのは、侍の血を受け継いだ久遠くんの仕事になる訳で。


「・・・・・・」


 あたしは、久遠くんの横顔を、ちらりと見つめる。
 あたしがちゃんとしなければ、久遠くんも犠牲になるんだ。
 当然、町の人達も。
 今までの魔物退治とは違う、妙な緊張感。
 大変な事をしようとしている実感が少しずつ湧いてきて、あたしの両手がじわじわと汗ばんだ。