下町退魔師の日常

 そして、あたしを押し退けるようにしてみんなの前に進み出ると、床に正座した。


「昨日の事は、心から謝ります。皆さんが出ていけというなら、俺はそれに従いますから」
「久遠くん!?」


 嘘でしょ。
 昨日、ここにいるって言ってくれたのに。


「ちょっと待ってよ・・・みんな聞いて! この町は、来るのも出て行くのも、自由じゃなかったの!?」


 そうだよ。
 別に、外から来る人を拒む訳ではない。
 そして、出て行く人を束縛する訳でもない。
 それがこの町に許された、唯一の自由。
 それを・・・みんなは、久遠くんに出て行けというの!?


「あたしらも久遠くんがどんな人なのか、ちゃんと分かっているつもりだよ、まっちゃん。だけど、あの惨事を引き起こすかも知れないとなったら・・・それはまた、別の話さ」
「別の話って何よ!」


 思わず、あたしは怒鳴る。
 だって久遠くんの事を分かっているなら、そんな事言わない筈だよね!?


「ぜんっぜん分かってないよ! 久遠くんがどんなに・・・どんなに・・・!」


 辛い思いをして来たのか。
 あたしは、言葉が詰まって、何も言えなかった。


「マツコ」


 あたしを振り返り、久遠くんはゆっくりと首を振った。
 何も言うな。
 その目は、そう言ってるみたいに思えた。


「ただ少しだけ、猶予を貰えないかな」


 またみんなの方を向き、久遠くんは言った。
 みんなは黙っている。


「3日。3日だけ、ここに居させて下さい」


 そう言って、久遠くんはまた深々と頭を下げた。
 床に座っているから、もう殆ど土下座状態だ。
 あたしは、唇を噛み締めた。
 町の人達は、お互いに顔を見合わせて。


「まぁ、次に住む場所も考えなくちゃいけないだろうしね・・・そのくらいなら、あたしらも何も言わないよ」


 本当は、こんな事言いたくないんだよ。
 まっちゃんの言う通り、この町は来る者拒まず、去る者は追わない主義だからね。
 みんな口々にそんな事を言って、松の湯から出て行った。
 あたしはその場に立ち尽くしたまま両手の拳を握り締めて、口を固く結んでいる。
 そうでもしなきゃ、叫んでいるところだ。
 ――・・・この。
 この、偽善者たち!!
 結局は、自分たちの為なんだ。
 一緒に立ち向かおうなんて、これっぽっちも思っていないんだ。


「良かったな、3日も猶予が貰えた」


 立ち上がった久遠くんは、そう言ってあたしに笑いかけたけれど。
 あたしは、悔しさでいっぱいだった。
 目頭が熱くなる。


「だって・・・居てくれるって・・・」


 昨日、ホントに嬉しかったんだよ。
 やっとあたし達、少しだけ噛み合った気がしたのに。
 今度は、町の人達と噛み合わなくなっちゃった・・・。