下町退魔師の日常

「じゃあまたな!」


 軽く手を上げて、幹久はシゲさんを抱えて帰っていった。
 シゲさんが一升瓶を抱えてここに来ると、休憩室で顔見知りが集まって、毎晩のようにプチ宴会が始まる。
 近所のマダム連中なんて、漬物とスルメとか持ち込んでテーブルに広げたりしてるし。
 それも、この【松の湯】の日常の風景だ。
 そしてあたしは、こんな風景を見ながら生きて行ける事に、心の底から幸せを感じているんだ。
 ま、シゲさんが帰ったからそろそろプチ宴会もお開きなんだけどね。


「じゃ、まっちゃん、そろそろあたし達も帰るからね」
「また明日、来るよ」
「お休みまっちゃん」


 近所のマダム連中が、こぞって帰って行く。
 お休みなさいと笑顔で見送って。
 休憩室のテーブルには、ゴミひとつ落ちてはいない。
 あたしは腰に手を当てて苦笑しながら、軽く息を吐いて壁に掛けてある時計を見た。
 午後11時。
 今は、お風呂に入っているお客さんは一人もいない。
 ここの営業は深夜12時までだけど、11時半位にお客さんが来なかったら店を閉める事にしている。
 まぁ、大体は早く店じまいなんだけどね。
 明日の仕事量を少しでも軽くしようと、ホウキとチリトリを持ち出して掃除を始めようとした時、入り口の戸が小さく開いた。


「みゃぁ~」


 ただいま、とでも言うように一声鳴いて、茶トラの猫が入って来る。


「お帰りサスケ。何処に行ってたのよ」


 そんなあたしの文句も悠々と聞き流し、サスケは自分専用のカゴに入って寝転ぶと、そのまま丸くなる。
 ったく、猫ってとことんマイペースなのよ。
 そんなサスケは放っておいて、黙々と掃除を始めるあたし。