その時の私は、ママが急に怒り出したことが腑に落ちなかった。
「・・・自分が芽衣子が娘だったらいいのにって言ったくせに・・・」
ぼそりと呟いた一言で、ママの両目がかっと開き、私を見下ろすようにして急に席を立った。
ママを睨みつけたまま、ぐっと奥歯に力を入れた所で、勢い良くママの平手打ちが飛んできた。
パンと乾いた音が鳴った。
「晴美さん!」
ママの向かいに座る玲央さんが驚いた顔をして、名前を呼んだ。
手にしていたお茶碗と箸をテーブルの上に置き、殴られた頬を右手で抑えた。
たくさんの悪態が喉の辺りまでこみ上げてきたけれど、全部飲み込んで我慢した。
「玲央さん、ごちそう様でした」
それだけ告げると、静かに席を立った。
「美雨ちゃん」
リビングの扉を開く時に、玲央さんが私を呼んだけれど、振り返らずに、扉を閉めた。
「晴美さん、やり過ぎだよ」
「いいの、あの子の悪い癖なの。気に入らないことがあると、ああやっていつも私の前から逃げるの」
リビングから玲央さんとママの言い合いが聞こえてきた。

