「あいつら、こっち見てるぞ」
賢一が俺の後ろを見ながら小声で呟く。
やっぱりな。
俺の背中に、痛いほど視線を感じる。
カズはどんな顔で俺を見ているのかな。
想像するだけで、すごく怖い。
「やるか?」
「やろうか?」
賢一と慎吾は顔を見合わせて頷いた。
何をやるんだろう。
不意に賢一が鼻の穴にスティックを突っ込む。
そして白目を剥き、
「セイウチ」
そう言った時……
「てめぇら!何してやがる!!」
優弥の雷が落ちた。
いつの間に帰ってきたんだ、優弥!
「ゆ、優弥!ごめん!!」
慌てて謝る俺に、わざとらしく咳払いをする優弥。
「ち……違う、艶!」
「悪い、つい!!」
賢一も何だかあたふたしていて。
優弥は般若の顔をして、俺たちのシャツを掴んで控え室を後にした。
まずい。
優弥は完全にお怒りモードだ。
「碧、酙、玄。遊びはここまでだ」
低い声で優弥が言う。
「リハーサルは一回きり。
真剣にやるぞ」
俺は顔を引き締めた。
俺は今から碧になる。
馬鹿な戸崎蒼の殻を脱ぎ捨て、人々を狂わす碧になる。



