ー中山sideー
戸崎さんは優しい。
俺みたいな可愛げのない後輩のために、本気で時間を割いてくれる。
戸崎さんに会うまでは、妄想が妄想を呼んでいた。
碧はクールでかっこいい。
大ファンだけど、やんちゃで怖い人だと思っていた。
だけど実際は……
「上手じゃん」
戸崎さんとは比べ物にならない俺なのに、そう言ってくれる。
それ以上何も言ってくれる気配もないから、
「ここのリフの部分、厳しいんですが……」
そう聞くと、
「ミュートをしっかりすれば、何とかなるよ」
そう言って、俺の手の形を正す。
手が痛くなって、思わず顔を歪めると、
「普通のコードじゃないんだよ。
おっさんの曲って」
戸崎さんはそう言って笑った。
俺はそんな戸崎さんに見惚れてしまう。
戸崎さんは普通の先輩だけど……
俺って今すごく贅沢なことをしていると改めて感じる。
だって、あの碧を独占だ。
あの碧にギターを教えてもらっている。



