ー蒼sideー
久しぶりのこの緊張。
親睦会とは比べ物にならない重圧がのしかかる。
まだまだ開演までは時間がある。
発作は始まっていない。
だけど、俺の弱い心が悲鳴を上げていた。
それをぐっと我慢して、前を睨む。
鏡に写っている俺は、力強い瞳で俺を見ていた。
その瞳は、かつての俺。
……俺なら出来る。
俺ならまた碧になれる。
大丈夫。
今回も練習に練習を重ねたから。
黒色の髪は、ワックスで碧らしく散らした。
久しぶりに唯ちゃんからもらったピアスを付けた。
左手にはプラチナの結婚指輪。
その結婚指輪を握りしめる。
今日は関係者席にいる唯ちゃん。
ねーちゃんや隆太たちと俺を見守ってくれている。
それが俺の救い。
唯ちゃんがいるから、俺は自信を持てる。
俺は碧になれる。
それに……
会社の上司や同僚の顔が浮かんだ。
楽しみにしてくれているから。
ファンと言ってくれているから。
Fの活動について、温かい目で見守ってくれたから。
俺は恩返しをしないといけない。
最高の演奏をして。



