「蒼……
大丈夫だから……」
あたしはその身体を抱きしめる。
その身体は小さく震えていて。
Fの碧とは到底思えない。
「碧、時間だ」
慎吾……いや、酙が言う。
その顔はすっかりプロの顔。
「唯ちゃん……
頑張るから……
見ててね」
彼はそう言ってあたしを離す。
そして、涙ぐんだ子犬のような瞳であたしを見た。
震える手でギターを掴み、一歩を踏み出す。
ぎこちなく歩くその足は、気付いたら力強く地面を踏み出している。
泣きそうなその顔は、不敵な顔で客席を睨む。
そこにいるのは、いつもの碧。
だけどあたしには、蒼の体温と香りが余韻となって残っていた。
あたしは本当のあなたを知っていく。
素直で、純粋で、弱くて、脆くて。
知れば知るほど離れられなくなる。
スポットライトを浴びて輝くあなたの裏側には、たくさんの苦悩との戦いがある。
蒼は碧となって弱い自分に打ち勝ち、観客を魅了する。



