そして……
開演三十分前。
あたしは、蒼とともにFの控え室にいた。
だけどそこにいるのは、いつものおちゃらけたFではなかった。
黒を基調とした衣装に着替えたメンバーは、最終調節をしている。
賢一はヘッドホンをして、ひたすら一定のリズムを打っている。
慎吾はもくもくと指の練習をしていて。
蒼と、コーラスを担当する優弥さんはギターをいじったり発声練習をしたり。
ピリピリとした空気が漂っていた。
昨日の舞台裏と全く違う。
これがプロの世界。
彼らの本気の世界。
「よし、行くか」
優弥さんの声で立ち上がるメンバー。
その顔はきゅっと引き締まっていて、すっかりプロの顔。
円陣を組み、気合いを入れ、部屋を後にした。
ピリピリした空気の中、あたしは蒼の隣を歩く。
蒼はきゅっと口を結んで前を見ていた。
そして、その顔は少し青く手が震えている。
あたしは、そんな蒼の手を握った。



