たゆたえども沈まず


何でもないことのように聞けば良かった。

三年の教室の入口で、松潟先輩がいるかとどうかを聞いた。
松潟、と呼ばれて振り向いた顔は全然知らない顔だったけれど、私は教室の中に入ってその机に近づく。

聞いていたら、きっとこんな気持ちにならなかった。

「初めまして、二年の栂です」

松潟先輩は椅子に座ったまま私を見上げる。どぎつい赤の唇が目に入った。

「何……?」

「学校辞めた艶野久喜についてお尋ねしたいんですけど」

あくまで笑顔で話した。私がしたいのは久喜のような喧嘩ではなく、話し合いだ。