帰宅後、あらゆる家のことを済ませ、今は夕食の準備中。

「…ん、よし」

鍋にふたをして、時計を見る。
そろそろだった。

と、その時、鍵の開く音が玄関からした。
「ただいま」
「おかえり樹」

樹は、高橋先生の顔では無くなっていた。

「いい匂いする。今日のご飯は?」
「リゾットですよー」
「やった。桜のリゾット好き」
「ありがと」

樹は靴を脱いで上がり、はーっと私に抱きつく。
「お疲れ様です」
「ありがとうございます奥さん」
「いえいえ。さあご飯にしましょう旦那さん」

ポンポンと背中を軽く叩くとゆっくりと離れ、ダイニングに向かい出す。
私はキッチンでお皿に料理を盛った。

「美味しい」
「本当?よかった」
樹は子供のように頬張る。
雪は樹のことを…高橋先生のことをクールだと言っていたけど、実は彼は感情豊かだ。
少し表に出にくいだけで、クールだったことなんて無い。

「あ、そういえば、お昼のアレは何が発端?」
「…あー、西牟田先輩?」

樹はコクコクと頷く。