「その日、俺は千晶と遊んだまま寝ちゃって。気づけば朝になっていた。すーすーと眠る千晶のすぐ側にいた俺だけを二人は起こして」
翔太先輩が丹田千晶をちらりと見る
「…私たち、これ以上千晶といたら頭がおかしくなりそうなの。なんでこんなに美しく生まれてきてしまったのかしら。…あなたなら、もうここで千晶と楽しくやっていけるわ。たまに死んでないか様子を見にきてあげて」
低い声で女の人の話し方をする
その目はどこか遠くをみつめていた
「俺の頭を二人で撫でて、腕をくんで家を出ていった。その姿がずっと頭にある」
俺はどうしていいか分からずにぬるくなり始めたコーヒーを見ていた
「よくよく考えればその1年間はおかしかった。千晶と遊ぶ以上におじさんとおばさんの手伝いをしていたような気がする。…二人は俺を千晶の家政婦みたいな存在にさせたかったんだと思う」
…大人はなんて身勝手なんだろうか
愛しいはずの娘を一人きりにして
その友人までを自分の都合のいいようにする
純粋な子供たちはそんなことなど知らず
現実を知った今はこんなに悲しい顔をしている

