「なんか…緊張する」
さっき女の人が座っていたベンチに腰を下ろして、番号が書いてある紙をみつめる
なんでだろう、怖い
丹田千晶と話したいけど、話したくない
そもそも、俺の記憶には残ってない丹田千晶とどうして話したいんだろう
……話したいんじゃない、話さなきゃだめな気がするんだ
「よし!」
情けないことに番号を打つ指は震えている
全てを打ち終わり、あとはかけるだけなんだけど…
「なんなんだ、この緊張感は」
本当に情けない
ここでかけなきゃ男じゃないっしょ!
その思いだけで、通話ボタンを押した
『…はい』
長い呼び出し音のあとの、透き通るような声になぜか涙が溢れた
『藤宮光でしょう?どうしたの?泣いてるの?』
バカにしたような言い方に言い返したいのに、声を出せば泣いていると完全にバレてしまう
「お前の耳がおかしいだけだろ…」
俺は涙を拭ってそう言った

