…逃げようとしたのに…
「…っあ!藤宮光!!!」
後ろから聞こえたその声に俺は無条件に反応した
駆け寄ってくる丹田千晶はまるで犬のようで、抱き締めたい衝動にかられる
「はい!これ!」
気持ちをぐっと抑えてつき出された手を見ると、白くて小さな手のひらに500円が乗っていた
「これでさ、翔太と菜々子ちゃんへのプレゼント買ってきてよ」
「…ご、500円で何を買えと?」
「…え、うーん。足りないかな?」
眉毛を八の字にしてそう聞く丹田千晶に、俺のスイッチが入った
「…じゃあ、俺も出すんで二人からってことにしましょうか?その代わり…」
すっと丹田千晶の耳元に口を近づける
「…慎先輩の側にいないで、いい子で待っててくださいね?」
自分でも驚くほどとびきり甘い声
じわじわと赤くなっていく丹田千晶
これは怒鳴られる前に花火を買いにいこうか
そーっと玄関へと向かうと
「…あ、たし!!!ちゃんと待ってるから!!!!」
…なあ、丹田千晶。
その言葉の意味はなんなんだよ
そんなこと言われたら…期待しちまうだろ
「すぐ戻る!!!!」
「おい!光!!!!!」
美沙先輩の手首を掴んで走る
待ってるから、一緒に買ってね。じゃなくて
待ってるから、早く帰ってきてね。そうだったらいいな