暑さで、頭がヤられてるのかも。

ノロノロとトイレへ戻り、ドア越しに声を掛ける。



「この作戦どうかと思う……」

「なーにー?」

すでに妃乃の声だ。


「平日の昼だからいいけど、普段はけっこう混むよ?」

「そうネェ」

「暑いしさ」

「確かにぃ」


妃乃が出て来た。

「あ~あ。本当に暑いわネ」


もうカツラは被っているので、充分美少女に見える。

美少女だけど、今は何も感じない。

そもそも妃乃って、人工的でよそよそしい感じがする。

私は清潔なガーゼみたいなゴウの優しさが好きだ。



……好きとか言ってるよ。



妃乃は、鏡に向かって最後の仕上げをしている。

ゴウの痕跡を塗り込めようとしているみたい。

見ているとイライラする。

妃乃に言いたい。

ゴウを消し去ろうとしないで。


でも2人は同一人物なんだと思って、今度は悲しくなる。



消し去ろうとしないで。





私は…

私はゴウが好きなんだから。