(三)
「単なるノロケじゃないかあぁっ!」
ちゃぶ台あればひっくり返す勢いで言われてしまった。
紅葉ちゃんが、人様の耳には刺激が強すぎるからと、喫茶店の隅ーーソファー席に移動したのに、周囲の視線が痛い。
昼の混み具合が落ち着いた午後二時だから、人はあんまりいないけど。
「三日も音信不通の理由がそれかっ。こちとら心配して助け行こうとしたのに、『あれ、紫暮さんの住む場所ってどこ?』とかなって、一人思い悩んでいたのにーっ」
店員さんの冷ややかな視線にすみませんっすみませんっと、頭を下げる。
「紅葉ちゃん、声が大きい」
たしなめれば、咳払いをして、何とか落ち着く紅葉ちゃんだけど、鼻息がまだ荒い。
「じっくり聞かせてもらおうじゃないの。どんな監禁生活だったかを!」
「監禁だなんて、ただのお泊まりだよ。……部屋から出してもらえない以外は」
「軟禁コースか。でも、音信不通とかやめてよね。本気で心配した。彼にケータイ取り上げられてたの?」
「ううん。スマフォは渡されていたけど……ロックがかかってたのっ」
思い出すも涙、語るも涙。
紅葉ちゃんに連絡しようとスマフォを手にした瞬間、パスワード入力の表示が!
「『俺のこと好きなら、すぐに分かるパスワードだよ』って言うから、紫暮さんが仕事に行っている間に、色々試したのに。ついには、0000から数字を一つずつ順番にあげる途方もない作業していたんだけど、彼が帰ってきたら、スマフォを取り上げられちゃうしっ。ごめんね、紅葉ちゃん!心配かけさせてっ。4585までやったんだけど、ダメだった!」
「健気な天然は花丸あげるけど、彼が仕事行っている間に逃げ出せばいいじゃないの」
「えっ、でも。私がいきなりいなくなったら、紫暮さんが心配すると思って。『出かけます』のメールも打てない状態だったし。だから頑張って数字打ってたよ!」
「さすが、伊達に雛の彼氏やってないわね。どんくさ天然、しかもか健気属性を熟知してるわ」
忌々しげに親指の爪を噛む紅葉ちゃんだった。
「まあでも、あんたの悩みが一つ消えて良かったわ。微妙に病んでいる箇所とかも聞けて、今夜のオカズをありがとう」
お肌をツヤッツヤッさせながら言われてしまった。
「にしても、休日に雛のヤンデレトーカーになっていたとはねぇ。あたしとの密会も見られていたのかしら」
「ヤンデレトーカー?」
「ただのストーカーと、ヤンデレのストーカーを同一視されたくなくて、あたしはヤンデレの愛あるストーキングをヤンデレトーカーと呼ぶの。待っててね、いつかは流行語大賞にしてみせるから!」


