「あたし芳賀夏枝。一年間よろしく!」


何の前触れもなく、自己紹介しながら握手を求めてきた一人の女の子。
この人、確か去年転入してきた芳賀さんだ。
少し噂を耳にしたことがあったから、一応記憶にあったけど。
……嫌だな、私こういう積極的な人苦手なのに。どうして私なんかに声掛けるんだろ。

私はあえて挨拶に応答しない。
ここでマトモに返してしまえば、その気があると勘違いされてしまうかもしれないからだ。
慣れ合うつもりは一切ない。だから彼女の親切に甘える必要もない。

逸らした目は再び文字の羅列の方へ。
しかし芳賀さんが読書を再開することを許してはくれなかった。


「突然だけど友達になりましょう」
「……話し掛けないで」
「一人だとつまんないでしょ?ほら本ばっかり読んでないでさ」


そう言って芳賀さんは私の本に手を掛けた。


「――ッ、話し掛けないでってば!」


ぱしん、と乾いた音がしてハッとする。
私は拒絶の意を示すために、芳賀さんの手をはねのけてしまったのだ。
反射的だったとはいえ、申し訳なさが胸いっぱいに広がって、行き場を無くしていた右手を机の下に隠す。