春の季語なだけに桜を描く人は多そうだけど、これまでも決められたお題に沿って作品を描いてきた自分にしてみれば、周囲と同じ方が逆に安心できるという考えもできる。

ネタが被るのは嫌だという目立ちたがり屋とは違い、小心者の私は地味に主張したい派なのだ。

それに同じ物を題材にしても、それぞれの個性が垣間見えるのは面白い。

題材選びに思いの外時間を費やしてしまったので、資料を見ながら簡単にデッサンを描いて本日の部活は終了。

明日から本格的に取り掛かることにして帰宅しようと思った私だけど、生憎今日は友達の方が歯医者があるとかで、先に下校してしまっていたのだ。

脳内では昨日の恐怖が再び呼び起こされた。

モタモタしていたせいで先輩も後輩も既に美術室をあとにしている。

でも走って校門前に行けばまだ間に合うんじゃないだろうか。

きっと誰かしら知人がいるだろうし、声を掛けて坂の下まで同行願おう。

私は廊下は走るなという張り紙を無視し駆け足になる。

しかし靴を履き替え外に出た時、名前を呼ばれた方に視線を移動させて真っ先にタイミングの悪さを恨んだ。