結局事件として立件しないまま、巽と環はホテルを出た。

「有り難うございました、巽さん…」

「毎回同じ事言わせるんだな、お前は…」

呆れたように頭を掻く巽。

「仕事でやってんだ、礼はいらないって前にも言わなかったか?」

「でも…」

環は俯く。

「巽さんに会う時は、いつも助けてもらってばかりで」

「だからそれが俺の仕事なんだよ」

革ジャンのポケットに手を突っ込み、歩き出す巽。

「さ、早く帰った方がいい…送ってやる」