家に帰ると、誰もいなかった。


いや、正確には、ある人がいなかった。



リビングの机には印鑑と紙。


そして、机に屈服して泣いている父。



当時まだ子どもだった私でも、すぐに分かった。


────お母さんはもう、帰ってこない─



後から聞いた話だと、母は別の男と駆け落ちしたらしい。


父を捨て、母が別のところに行った理由。


………私のせい。


実は私は父の子じゃなかったんだって。


母が逃げた男との間に生まれた子らしい。



それから父は…変わった。