花翼は「はい」とお辞儀をする。
儚月、といったか。あの男に磨閖は仕えているらしい。
初めてだった。あんな穏やかな顔をした人を見たのは。儚月に会ったのは今日が初めてだったが、印象はとてもいい。
浅葱と同じくらいだ。
風が吹く。陽の光が落ち始めた夕焼け空が目に見える。花翼は長い髪の毛をなびかせながら、紅に染まった空を眺めた。
今日1日、とても疲れてしまった。田舎から都へ来たことによる疲労。そして、新しい暮らしに対する緊張。
どちらも体験したことがなかったのだ。
十七年間村に篭もりきりだった花翼にとってはじめての外出とも言ってよかった。
もちろんそれは浅葱が知ることではない。
「……………もう半年かぁ」
ふと都に来たばかりのことを思い出していた花翼はため息をつく。
もう宮中に上がって半年ほどがたった。
まだ人前での演奏は慣れておらず、直前には体調を崩すのが恒例になっていた。
それでも演奏だけはやってのけるのが、花翼である。



