弾き終わると戸の近くにある人影に、花翼は気がついた。
「………あの、どちら様ですか?」
花翼がたずねると、その人影は動き、前に出てきた。
「これはすまない。つい聴き入ってしまったみたいだ。」
人影は、男のようだ。
声と容姿で、花翼はそう判断した。
そして、村の者とは思えないほどの、高価な着物を着ていた。
都の者だと直感した。
「俺は宮中に住む貴族の"浅葱"という。今日はお前の演奏を聞きにきた。」
「私の………演奏を?」
「そうだ。都では腕の良い琴の演奏者がいると噂になっている。俺は実際に聞いてみたくてな、こうして訪れたわけだ。」
「そう、ですか。」
「どうだ、聞かせてくれないか?」
花翼は一瞬たじろいだ、が、すぐ笑顔をつくり、「はい」と頷いた。
「─────ありがとうございました。」
演奏が終わり、頭を下げる。