最悪から最愛へ

「青田さん、お疲れ様です!」


本部のあるビルの駐車場に車を停めて、降りた時、背後から元気の良い声が聞こえてきた。峻は声がしたほうへと振り向く。


「ああ、野原さん。お疲れ様」


「今日は暑いですよねー。あ、青田さん!もう半袖になっているのですね。半袖姿もよく似合いますね!すごいかっこいいですよ」


他店の店長である野原由香は、峻に好意を抱いているから、あからさまに褒める。褒められて悪い気はしないが、下心が丸見えだ。由香は峻より1つ年下で、今年店長になったばかりである。


店長としての顔はキリッとしていて、出来る女のイメージを与えているけど、普段は緩んだ表情を見せることが多く甘えた声で男に媚びる。


「ああ…ありがとう」


峻は甘える女も媚びる女も嫌いだ。でも、接客業で身に付いた感謝の言葉は思ってなくても、出てしまうのだった。

これも、一種の職業病だろう。