最悪から最愛へ

「お疲れ。そこ、座っていいよ」


「いえ、ここでいいです」


狭い店長室には、一応簡易椅子が置いてある。峻は、渚が座れるように広げて待っていたのだった。


その簡易椅子に座って、二人が向かい合うと、おそらく膝がぶつかる。渚はそれを咄嗟に想像した。狭い空間では、距離が近くなってしまう。だから、渚は断ったのだ。それに、長居はしたくない。


「まあ、いいや…」


峻は無理矢理に座らせることはしない。特別な意味があって、椅子に座るよう促したのではない。

座らない椅子は邪魔なだけなので、峻は閉じて壁に立て掛けた。


「何でしょうか?」


「何だったっけ…」


聞きたいことがあって、渚を呼び出した。用件を忘れてはいないが、呆けたふりをする。


「用がないなら、戻りますけど」


「待て。用はある。何で俺を避けている?」


渚はここを出ようと峻に背中を向けたが、止められて止まった。